〈一冊の本〉 『奄美の軌跡』 ―「祖国復帰《著者たちの無血革命― 永田浩三著 WAVE出版 2015年7月   本体1,700円(税抜) 本研究所嘱託研究員 古賀 皓生 (教育学)  沖縄が戦後28年間米国の占領下に置かれたことはよく知られている。しかし、鹿児島県の一部である奄美もまた、1946年2月2日から1958年12月25日までの約8年間、沖縄とは別に行政分離され直接軍政下に置かれたことはあまり知られていない。  沖縄より早く日本に復帰できた要因の一つには、当時の日米関係・国際関係との関連で、沖縄に比べて奄美は軍事上相対的に重要とみなされなかったことが考えられる。もう一つは、それ以上に奄美では、占領下の早い段階で復帰運動が始まり、数多くの集会、署吊活動、断食期間などの様々な島ぐるみの大きな運動が展開されたことがあげられる。  生活物資と資材を日本本土に依存し、黒糖、本場大島紬の交易を中心にしてきた奄美にとっては、行政分離による本土との遮断は致命的であった。島民は言語に絶するほどの生活困窮を強いられた。また、言論をはじめ軍による統制も厳しかった。  こうした閉塞状況を打破しようとして、最初に復帰運動を提唱して活動を展開したのは青年団をはじめとした若者たちであった。  本書は、軍政下に置かれた奄美がどのような状況に追い込まれたか。先の見えない窮迫した事態に立ち向かい、乗り越えるために「事実は、小説より奇なり《と言いたくなるように、人と人、人と出来事が、出会い繋がり結びあって、どのように行動や表現活動が展開されていったか。そして、それらが復帰運動に収斂し、広がりをみせて復帰に至るのか。  こうした動きを、中心的な役割を担った人や運動を牽引し続けた若者達に焦点をあてて、復帰に至るまでの歴史的事実を捉え返し、再構成した貴重な記録である。歴史書というよりもドキュメンタリーの労作である。当時を知る関係者に会い、少女時代に復帰運動を経験し、軍政下の奄美に関する資料を収集してきた井上邦子さんから提供された重要文献を読み込み、ドラマティックにリアルに眼に浮かぶように描いている。  また、巻末の文献リストは軍政下の奄美を知るための重要な手がかりであり、意義深い資料である。  著者は、現在は大学教授であるが、かつて「クローズアップ現代《や「NHKスペシャル《など優れた番組を制作してきたプロデューサーであった。  著者の永田浩三氏には、『NHKと政治権力』(岩波現代文庫 2014年8月刊)という本もある。この本は、2001年1月、日本軍慰安婦問題を扱ったNHK教育TVの教養番組が、政治家の圧力を受けNHK幹部の指示によって、放送直前に改変された事件の真相を明らかにしようとしたものである。  担当のプロデューサーが著者であり、政治家とは中川昭一・安倊晋三といった人たちではないかとされている。著者は、当時者として厳しい自己批判をしながら、率直に事実経過を辿り、真相に迫ろうとしている。まさに、迫真の書であり、最近のマスコミの動向と関連づけて読むのに相応しい一冊である。  『奄美の軌跡』とあわせて、是非読んで頂きたい。