福祉見てある記54  就労移行支援事業所  ココロの学校オルタナ訪問記 本研究所研究員 柳  政勝 (精神保健福祉) オルタナ誕生とその理念  オルタナは平成24年に熊本市池田に開設された。現在は熊本市徳王に移転して活動している。設立趣旨は理事の一人に泉理事がいてその当時、顔面がひきつったり、片目が開かないなどの症状が出たため当時行っていた事業を辞めて、泉理事が竹山を持っていて青果市場にタケノコを売り生計を立てるようになった。上記の症状が自然と消失して行くとともに悩みもなくなることを経験したという。この頃、福祉関係者との出会いがあり、薬を飲んでいて苦しんでいる人、引きこもっている人の話などを聞き心の病をお持ちの方の就労支援系社会貢献型事業を考えるようになった。また、農薬を使わない農作物を作る方向で動き始めた。また、坂本ぜんぞうさんという画家と理事との出会いがあり、「生活を楽しむ《「イメージする《という視点をお持ちの方から影響を受けたらしい。「癒しの場を創ること《、「人とのつながりを考える《支援施設開設を考えた。ここに就労移行支援事業所ココロの学校オルタナが誕生したようである。このオルタナはオルタナティブから命吊したという。発足当時は2吊の利用者がいた。 中村施設長とオルタナ  この時期には中村施設長とオルタナとの出会いがあり、中村氏自身は一般企業に勤めた頃にうつになり自身の発揮できる場を探し求めていたところ、オルタナの求人があり設立目的など事業内容(心の病の方に関わってもらえるか)に共感して入社を希望した。オルタナ(農園を創る方向性)のコンセプトの一つにデトックス(悪いものを出す、老廃物を出す)という言葉がある。「四季を感じる《、「太陽の光を浴びる《、「生活リズムを取り戻す《、「癒しの場所《これは人が自然界に戻っていくという自然回帰というイメージがある。文明社会の中で生活をしている人々は情報社会の中で人間疎外の生活を強いられていると考えることができる。そのため農園療法を行うようになった。 オルタナの支援の価値観  オルタナを移転する頃(平成28年4月)は10吊を超える利用者があり、みんなで農園を創ろうという考え方は坂本先生の絵画の中にあったものを行動に移す。薬を飲んでおられる方、食生活の乱れている、運動もしていない方などがいて、四季を感じてもらう、外での活動をしてもらう、という趣旨のもとでセラピーカリキュラム(農園療法)をおこなう。これはもともとの人間が生活していくためのリズムを取り戻すという考え方でもある。自分たちで創るという視点もある。現在地に引っ越しするときにも坂本先生に絵を描いてもらい、さまざまなイメージすることができた。芝を張ったりかまどを創ったりした。壁を創ったり、トイレを作成したり、ドアを創ったりする。また、照明器具を天井に付けるなど行っている。究極の目的は「ケチです《という。中村氏は一般企業で働いていた時の給料は現在の給料の2倊であった。何が幸せなのかと考えた時にお金だけではないと思うようになった。それに、その給料に見合った生活をする。  就労移行の中で給料を気にすることがある。お金が大切なのか、それ以外の人との関係性や物の大切さを実感したりすることの気づきなどがあった。熊本震災で廃材がたくさん出てきてその廃材を使って次の調度品を創ることや生活必需品を作成するなどの行動に出る。収入よりもお金よりも人との関係や足元の生活を利用者とともに作っていく。現代社会はごはんを電気釜で炊けるが、ハガマでご飯を炊くというプログラムを作っている。これを実行するためには、マキ作りから水加減や火力のマキの入れ方まで工夫しなければならない。なぜ、そんなことをするのか。このことを問うと、「人間が持つ五感を刺激し、自身を取り戻せる《という回答が得られた。必要なものは買わなくて創るという視点を持つようになってきた。また、ディスカッションをするプログラムが多くある。「学生にはこんな生き方もあるよ《という生活スタイルを知ってほしい。セラピーのカリキュラムもあり、農園で作ったものを売るというよりもそれを食する。ココロのカウンセリングを行い当事者同士の話し合いなどもしている。オルタナでは話すプログラムが多い。対話することが多い。対話で迷うこともあり、混乱ということもある。しかし、話て良かったと思うことが多い。一方では、古民家を再生しようとするプロジェクトがあり、田舎の少子高齢化問題がある。30年後の田舎はどうなっているだろうか。空き家が増える可能性が高い。その空き家をどう活用するか、どのように活かすかという視点でプロジェクトは動いている。みんなで居場所を創ろうかという考え方もあり、上記のプロジェクトは動いている。 イノベーションやプロボノ視点  うつになった人がここに来てお茶を飲みながら話せたらどうだろうか。イノベーションとかプロボノ(社会貢献)とかいうキーワードが出てくる。「ここにカフェができたらいいな《「ここに住めたらいいね《などの意見を大事にする。小さな声を拾いながらその意見を共有する姿勢を貫く。  支援プログラムの中では特徴の一つとして「リブートキャンプ《という取り組みがある。これは自然豊かな地域で寝食をともにして人間の原点回帰をめざす。語り合い、農業、漁業を体験しながら自然に癒され仲間意識が芽生えてくる。そこでの交流が生まれ人間的な触れ合いが醸し出されていくようである。また、キャンプをやりきった達成感などが立ち直る「きっかけ《を見出し再起動することが可能になる。 おわりに  最後にオルタナで働いているスタッフやメンバーは他の福祉施設で働いている人たちと比べても活動的で生き生きと働いている印象がある。その理由はなにか?中村氏の話から創造できることは、パートナーシップという関係性ではなかろうか。これは一朝一夕にはできるものではなく、時間をかけて築き上げた目に見えないものではなかろうか。ここには可能性があると感じる。今回で2回の見学をして話を聞く中で大切なものは見えないということがわかった。見えないから話を聞く。これからも機会があるごとに学生を連れて見学研修を行いたいと思っている。