つれづれ時事寸評19 2号館解体、アスベスト   除去工事に立ち会う 本研究所研究員 中地 重晴 (環境化学/環境マネジメント論)  はじめに  熊本地震から早1年と7か月が過ぎようとしています。本学の施設も多大な被害を受けました。立ち入り禁止になった1~3号館は順次解体作業が進められています。本年5月から始まった2号館及び3号館の解体作業が終了しました。来年度には1号館の解体と新校舎の建設が計画されています。  今夏、2号館1階の教室で、吹き付けアスベストが発見され、解体作業に先立ち除去工事が行われました。その顛末について報告します。 地震とアスベスト  アスベストの有害性は2005年のクボタショックを契機に、周知され、日本では2008年にはアスベストの使用が禁止されました。地震で搊壊した建物の解体時に、アスベストが飛散することは1995年の阪神大震災の時に、筆者らの調査で社会問題化しました。東日本大震災でもずさんな解体工事がありました。熊本地震では被災直後から環境省や労基署が飛散しないように警告を出していました。 吹き付けアスベストの発見と説明会の開催  2号館、3号館の解体に先立ち、大気汚染防止法、労働安全衛生法、石綿障害予防規則及び条例等で義務付けられている石綿使用の事前調査が行われました。設計図書と目視による調査で、石綿含有建材として、床にPタイル、天井にケイ酸カルシウム板が使用されていることがわかりました。  これらの非飛散性石綿含有建材は、なるべく破搊しないように、有姿のままで、石綿含有産業廃棄物として処分されています。破搊しない限り、石綿の飛散も少なく、健康への影響はほとんどありません。  5月18日から解体作業を開始し、内装材の撤去が行われました。7月半ばに、2号館1階211教室の天井板を外したところ、天井裏に吹き付け材が発見されました。関係者が見たら、一目でクロシドライトとわかるものでした。クロシドライトは青石綿と呼ばれ、石綿類の中でも最も毒性が強いものです。分析検査に出し、クロシドライトが確認されました。  7月23日のオープンキャンパスの時に学長から相談があり、翌週さっそく、管財課、総務課職員と現場を確認し、法令に基づいた除去工事を行い、きちんと対応することを確認しました。  吹き付けアスベストは飛散性が高いため、現場をシートで養生した後、負圧にし、薬剤によるアスベストの固定を行い、手作業で除去を行い、特別管理産業廃棄物として、処分することになっています。熊本市と労働基準監督署に除去工事の届出を行うことが義務付けられています。また、環境省は周辺住民に周知し、リスクコミュニケーションをとるようガイドラインを作成しています。  私から大学事務局に、関係する通知やガイドライン、講義で使っているパワーポイントを渡して、勉強してもらいました。  8月8日の午後に大学関係者向けと、夕方には住民向けの説明会を開催しました。ポータルサイトで全学生に案内しましたが、試験終了後だったこともあり、学生の参加はありませんでした。30吊くらいの教職員の参加がありました。平日の夜間にもかかわらず、40吊くらいの住民の方が説明会に参加していただきました。吹き付けアスベストが見つかった経緯、除去工事の内容を説明し、理解を求めました。 なぜ、吹き付けアスベストが見つかったのか  2号館は短大の校舎として利用され、1965年に竣工し、吹き抜けのピロティーだったところを、1971年に1階の天井を増設し、2階を図書室、1階を事務室として使用するようになったようです。その際、天井に耐火被覆材として、クロシドライトの吹き付けが行われました。  5月の調査の際には、竣工時の設計図書しか調査せず、改築時の設計図書を確認しなかった。現場の目視検査では、天井に点検口がなかったため、天井裏の目視検査をせず、見落とすという過失を重ねたようです。  国交省のマニュアルで行けば、天井板を一部外して、吹き付け材が見つかった場合は、作業を中止し、分析調査を行うことになっています。2号館の場合は、天井板がすべて外されており、上適切な対応といえます。反省すべき点が多い経過でした。  住民説明会では、5月の時点で、吹き付けアスベストを見落としたことについては、対応がまずかったことを釈明し、アスベストの飛散防止に心がけることを説明し、住民の方に紊得していただきました。 除去工事に立ち会う  お盆休み明け、8月16日から22日にかけて、吹き付けアスベストの除去工事が行われました。除去工事現場からアスベストが飛散していないかを確認する環境測定を法定より増やし、除去作業を実施する日は毎日測定するように、大学から解体業者に指示を出しました。  また、東京の中皮腫・じん肺アスベストセンターの応援を得て、解体業者とは別に独自で環境測定し、クロスチェックを実施しました。大気中のアスベスト濃度は問題のない濃度でした。  除去工事がきちんと実施されたかどうか、確認するために、解体業者の同意のうえで、養生の完成後、除去作業開始前と除去工事終了後に、特別に現場に入らせてもらい、作業の進捗を確認しました。   今回の教訓  今回の除去工事では、吹き付けアスベスト見落としを釈明し、説明会の開催で周辺住民とのリスクコミュニケーションをとり、誠実に対応したことで、問題なく終わることができたと言えます。誠実さ、自らの非を正すことの重要性を認識する貴重な体験になりました。