〈一冊の本〉 RED ヒトラーのデザイン 松田行正著 左右社    2017年8月  本体2,700円(税別) 本研究所研究員              髙木  亨 (人文地理学)  私は以前からデザインにとても興味を引かれていました。もともと絵を描くのは好きでしたので、この世界に入らなければ、デザイナーを目指していたかも知れません。そんなデザインの魅力を再認識させられたのが、ブランド論やインフォグラフィックの世界と出会ってからです。その時は地理学の世界に入っていましたが、「地理屋の描く地図は、正確だが、魅力的ではない《ことに気づいていました。しかし、まわりにはそんなことを気にする「変な人たち《はいませんでした。どうすれば正確でわかりやすく、かつ魅力的な地図が描けるのか、そんなときにデザインのことを思い出し、独学で勉強してみようと思ったわけです。すると、デザインの奥深さ、お絵かきだけではなく、様々な社会システムを含めたデザインの世界に魅せられていきました。そういった世界に到達できるよう、資料などを作成する際も、見やすく、わかりやすく、伝わりやすいを意識しながら、全体と部分とを行ったり来たりして、思考をおこなうようになりました。  さて、前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する本は、そんなデザインの視点から、ヒトラーとナチスドイツについて考察をしていったものです。加えて、ヒトラーのデザイン戦略を語るツールとして、ナチスをモチーフにした映画を随所で取り上げ、その「神秘性《「官能性《をとらえる試みもおこなっています。  著者の松田行正さんは、グラフィック・デザインを生業としている方です。そんな彼は、ヒトラーを「ナチ党の(中略)パーティー・アイデンティティ(PI)、そして政権を担ってからはライヒ・アイデンティティ(RI)を担ったクリエイティヴ・ディレクター《と位置づけます。そして、デザイン戦略の視点で「カギ十字《の解説からヒトラーのデザインの世界の解説が始まっていきます。赤地に白抜きの円、その中にある45度傾けられたハーケンクロイツの完成度の高さ(松田氏はこの傾きが持つデザイン的な力に注目しています)。このハーケンクロイツをありとあらゆるものに多用したその戦略は、人々を高揚させ、思考停止に陥れ、抵抗をあきらめさせる力があったとしています。こうした手法は、デザイン力の高さとともに人々に浸透していく原動力となっていく、その徹底ぶりは現代の広告手法に通用するものだそうです。  ヒトラーはデザインの重要性、メディアの重要性をいち早く理解し、取り入れた政治家だったということです。そして、「国家《をアートにすることで、本来の意味を覆い隠し「カッコいい《と思わせてしまう、そこを「手玉に取った《と。様々な政治的デザインの持つ危うさを松田氏は指摘しています。  デザイン(design)には「悪巧み《「陰謀《「野心《「下心《などという意味を含んでいるそうです。どこかの国の政治家が「ナチスに学べ《と言っていました。彼らが学んだことを実践させないためにも、デザインの持つ力についてこの本から学んでみてはいかがでしょうか。