10〜11ページ 福祉見てある記57 児童養護施設三光塾訪問記 本研究所研究員 堀  正嗣 (障害学) 「ルールがないことがルール」 ―― 一人ひとりの子どもに寄り添う支援  児童養護施設三光塾は兵庫県西宮市にあり、30年前から子どもの権利条約を子どもと一緒に勉強したり、カナダに学んで子どもの権利擁護に取り組んでいることで有名な施設です。念願がかなって、6月3日に訪問し、瀧野真継施設長にお話を伺い、施設を案内していただきました。  三光塾は阪神甲子園球場から1.5キロ、阪神電車鳴尾駅から徒歩約10分という利便性が高い場所にあります。2010年には建物老朽化により新築移転され、ユニット化されすべて個室となりました。住宅地に立地しており、施設には塀も門もなく自由に行き来ができるため、地域に溶け込んでいます。  5つのユニットがあり、各ユニット7〜9名の子どもを担当職員3〜6名が支援しています。担当制で職員は交代しません。また勤続年数は平均8年と長いため、一人ひとりの子どもに継続的にかかわっていきます。瀧野施設長は「子どもたちが荒れたときに、ともかく施設のルールを守らせなければならないと思ってやった結果、子どもたちが課題表出して深夜徘徊などを止められず破綻しかけた経験があり、その反省からルールで縛るのではなく信頼関係を築くことが大切だと考え」担当制に取り組んだとのことでした。  現在は「ルールは『人の権利を奪わない』ということ以外はそんなにない。施設だからこれはできないとかこれをしないといけないということはなくそうとしています。」とのことです。たとえば門限はあるけれども、子どもと相談して変えることができます。「ルールがないことがルール」という考え方で、自分から相談したり動く経験を大切にしたいと考えておられます。見学したユニットは家庭的な暖かい雰囲気で、職員も明るく子どもたちも落ち着いている印象でした。 生い立ちの整理と理解の支援  施設で生活する理由やこれまでの生い立ちについて、子どもが理解できるように担当職員が支援します。わからない部分は一緒に調べます。新しい発見や子どもの思い出を年表や、子どもにわかりやすいエコマップ・ジェノグラムで示します。子どもの育ちの背景を知って、子どもの日々の行動の意味を理解し支援することで、支援がやりやすくなったとのことでした。また、子どもたちとの関係性が深まり、性のことなども担当職員に相談しやすくなりました。その結果、子ども同士の暴力や性の課題が減少し落ち着いてきたとのことでした。子育ての目標は、「苦しい時に信頼できる人に『助けてよ』って言える人になってほしい」ということで、子どもと職員の継続的な関係性がその土台をつくることにつながっているとのお話が印象的でした。  子どもたちは措置延長で20歳の直前まで施設で生活します。担当制は継続したアフターケアや自立につながっているとのことです。最近では措置期間中にマンションを借りて、週末にはマンションで余暇を過ごす経験をして、職員が泊まり込んで一緒に食事をつくったりしてゆるやかに自立につなげておられます。施設の近辺のマンションに住む卒園生も多く、助け合って生活しています。「大舎の時は連絡が取れない卒園生が結構いたが、ユニットにしてから消息がつかめない卒園生は減った」とのお話が印象に残りました。 子どもの権利擁護  子どもの権利擁護については、ニコニコ委員会(子どもの権利委員会)を設置しておられます。この委員会で三光塾版の子どもの権利ノートを作成されており、居室に断りなく入られないことやパソコン・携帯はパスワードがかかっていて勝手に見られないことなどが記載されています。ニコニコ委員会では2か月に1回権利に関するアンケートを子どもに行っており、第三者的な立場の人も定期的に行います。たとえば「暴力などこわい場面を見たり、聞いたりしていませんか。」、「大人はあなたの話をきちんと聞いてくれますか」、「あなたの意見が生活に反映されていますか」などの項目があります。また市社協が派遣する施設オンブズマンが、月に2回訪問しています。  ノーマライゼーションが叫ばれて久しいが、施設の生活は閉鎖的で管理的になりがちです。特に児童施設はそのような傾向が強かったと思います。そうした中で、三光塾は家庭での生活に近いノーマルな生活を保障しようとする先進的な取り組みで、今後の施設のあり方を指し示していると感じました。