P08〜P09 つれづれ時事寸評25 「医療ソーシャルワーク活動」 本研究所嘱託研究員 加來 克幸 (社会福祉士/医療福祉) 【はじめに】  私は大学1年の冬、医療ソーシャルワーカー(以下、MSWと略す)の存在を知り、大学3年時に児島美都子教授(日本福祉大学名誉教授)の「地域医療とMSW」のゼミを選択した。卒業後は新設の病院にMSWとして入職し、老人保健施設、在宅介護支援センター(現在:地域包括支援センター)、介護保険サービス事業等の開設・運営業務に関わることができた。こうした経験をもとに約40年間のMSW活動を記す。 【熊本県医療ソーシャルワーカー協会と           私のMSW活動の礎】  熊本県医療社会事業協会(現在:熊本県医療ソーシャルワーカー協会に名称変更)は、1963年7月30日に当時の熊本短期大学の鰐淵健之先生(学校法人熊本学園第5代理事長)、内田守先生、岡本民夫先生の諸先生方のご尽力により設立された。その後、学生時代に実習等でお世話になった光永輝雄氏(当時は水俣市立病院MSW)が、現職の医療ソーシャルワーカーとして初代の熊本県医療社会事業協会会長に着任し九州医療社会事業協議会の立ち上げに貢献された。1967年、熊本県医療社会事業協会は熊本で開催された日本医療社会事業定期総会で熊本短期大学の先生方と共に、「医療社会福祉士法案」(当時の機関誌『熊本の医療社会事業』より)の審議に関わりを持つなどMSWの基盤づくりを担った。  入職当時の私はわからないことづくしで右往左往していたが、先人達の協会活動、毎月開催の事例検討会、県内外の研修会参加、光永輝雄先生や赤星香世子先生(元熊本学園大学教授:当時はPSW)、永野ユミ先生(当時は水俣市立湯之児病院RSW)他数名の諸先輩によって、今日の礎を作って下さったと感謝している。 【MSWとしての私の初期のスキル】  私の入職した整形外科・形成外科・リハビリテーション科を標ぼうする病院では、入退院予定患者も含めた症例報告を兼ねた会議や入退院カンファレンス、回診が毎週頻繁に行われ、新卒の私もその中に加わった。私の役割は、患者の自宅退院に向け、家庭環境や住宅環境などを中心とした進捗状況の報告であった。事前にスクリーニングし短時間でポイントを絞って報告するのだが、時には予測しなかった地域(生活の場)や社会資源の状況などの質問があるため、事前情報や面接による情報を独自のフェイスシート、アセスメントシートを手元に準備し、悪戦苦闘しながら情報共有に務めていた。一方、地域独自に展開されている地域リハビリテーションの情報を参考に、私は早期リハビリテーションから回復期リハビリテーション、在宅支援といった地域ケアへのソフトランディングと地域リハビリテーションの一役をMSWも担うべきであると思い、地域の社会資源の発掘や患者会・当事者支援を含む地域活動を大事にしてきた。 【医療法改正と診療報酬改正によるMSW活動】  入職した4年後の1985年に第1次医療法改正が行われた(その後、医療法改正は2018年第9次医療法改正まで至る)。第1次医療法改正では、都道府県に医療計画制度の導入、病院病床数の総量規制、医療資源の効率的活用、医療機関の機能分担と連携の促進、医療圏内の必要病床数の制限などにより駆け込み増床がみられたが、MSWを採用する医療機関は僅少であった。その後、老人保健法の制定に伴う老人保健施設の創設等によって、MSWが関わる入院・入所、退院・退所の相談支援と地域とのパイプ役的な連携は必須になっていった。更に2003年には国立病院(現:独立行政法人国立病院機構)等に勤務するMSWの任用資格が社会福祉士と精神保健福祉士となり、全国の大学付属病院でもMSWが採用され始めた。2006年の診療報酬改定では、初めて「退院支援計画書」の作成にかかわる職種として社会福祉士が明記された。同年、社会福祉士実習施設に「病院等医療施設」が追加された。その後、2012年の診療報酬・介護報酬の同時改定では、医療と介護の連携が加速化し、病院の退院調整部門の施設基準に社会福祉士が配置され、患者サポート体制、退院調整加算が新設された。2014年の医療介護総合確保推進法では、地域医療支援センターに社会福祉士が配置され、同年の診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟の施設基準に社会福祉士の位置付けが病棟専従配置となった。その後も2016年の診療報酬改定での退院支援加算、入退院支援加算(2018年)など診療報酬の算定要件に社会福祉士の配置が含まれるなど退院援助(在宅復帰支援)の地域連携に特化した役割への期待と共に医療機関では、社会福祉士及び精神保健福祉士資格を有するMSWの雇用が急増した。 【地域包括ケアと地域医療構想での          スペシフィックな活動】  医療ソーシャルワーカー業務指針(2002年)では、療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助、退院援助、社会復帰援助、受診・受療援助、経済的問題の解決、調整援助、地域活動が明記されたが、現在では、業務内容も複雑かつ多岐にわたっている。  他方、日本における現在の保健医療提供体制改革の柱は地域包括ケアシステムと地域医療構想の実現である。医療機関の機能分化・連携推進が行われている中にあって、医療・福祉の垣根を超えて様々な職種が連携する多職種連携は不可欠になっている。MSWは保健医療提供体制内ではチーム医療の一員であり、地域での保健・医療において同じ目的に向かって相互で「協働作業」できる中核な役割を担える職種であると考える。現に熊本県北部にある玉名地区ではソーシャルワーカーがコーディネーターとなり、医療・福祉・介護の専門職種に限らず様々な業種も巻き込み地域住民の生活を支える仕組みづくりに取り組んでいる。  このように、制度はますます複雑化し、しかも短期間に変更を繰り返される昨今、MSWは自身が「歩く社会資源」であることを強く自覚し、地域の保健医療福祉の動向に細心の関心を向けることが希求されている。MSWとして把握しておくべき「地域の情報」は常に鮮度を保つことが重要である。また、MSWが構築しているネットワークを日々の絶え間ない努力により、ネットワークにさらに広がりと厚みを持たせる必要がある。