P10〜P11 福祉見てある記61 コロナ禍におけるスポーツおよび授業の取組み 本研究所研究員 石橋 剛士 (運動学) コロナ禍のスポーツ  2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、3密を避けるといった新しい生活様式の推奨など日常生活も大きく変化している。これはスポーツを取り巻く環境も同様であり、あらゆる大会が中止または延期を余儀なくされている。2021年になっても感染増加は留まることを知らず、様々な都道府県において緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出される中、各スポーツ界も安全で安心な大会を目指し、各競技において様々な感染対策が講じられている。  特に接触を伴う競技のひとつとして挙げられる柔道においては、大会出場者だけでなく、大会役員、係員、審判員、報道関係者を含め会場に入るすべての関係者に大会日の2週間前からの健康記録表を提出すること、ならびに当日の体温チェック・マスク着用・入場前の手指消毒など様々なことが義務づけられている。さらに無観客はもちろんのこと、会場内の至るところに消毒液が配備され、試合場の畳を1時間おきに次亜塩素酸ナトリウムにて消毒するなど感染症対策が徹底して施されている(写真1・2)。  また剣道においては、全国高校総体(インターハイ)が史上初の中止となったことを受け、目標を見失った生徒の無念を晴らすべく、本県の剣道部監督が各校の指導者に呼びかけ、想いを代えるという名目のもと「全国高等学校高校生総体」を実施している。本大会は原則3年生のみの参加と無観客、選手はマスクを着用した上に面を着用するなど感染対策が徹底された中での実施であった。  一方で本学における部活動の状況は、活動を承認された団体(各競技ごとに協会等から定められている感染予防ガイドラインに基づくルール設定を行っている)にかぎり、同意書ならびにアプリ内で管理されている健康観察表を毎日記録し、感染拡大防止対策を実施した上で活動が許可されている。共通ルールとして、この他にも練習中の原則マスク着用、器具等の消毒、大声を発しない、学生同士の接触や感染リスクの高い活動を避ける、換気の徹底などが挙げられる。ただし熊本県のリスクレベルに伴い、学生の感染状況を踏まえてさらに行動制限がかかってくる。 本学体育授業の取り組み  本学は、2020年6月4日より通常授業実施への段階的措置として一部の授業が「対面式授業」として開始された。対面式授業については教育的効果から実技科目も含まれており、スポーツ指導法実習(水泳・陸上・ネット型・ゴール型など)や健康科学B(実技:ソフトボール・バドミントン・バスケットボール・卓球など)といった科目が開講されている。その中でも卓球においては、競技の性質上、換気ができないこと、また毎年の受講者が50名以上いることからもその年に限り複合種目とし、主に屋外で実施可能な競技に切り替えて対応した。  感染予防の取り組みとしては、学生が安全で安心して実技の授業に取り組めるよう体育の教員間にて話合いを重ね、表1に示す健康観察表を作成した。この観察表を毎回の授業冒頭時に履修者に記入させ、一人ひとりにおける非接触式を用いた体温チェック、再度手指の消毒を入念に行った。またもしもの場合に備え、使用者が追跡できるよう各道具に番号を振り、管理した。  このコロナ禍の中で学生は長い自粛期間が続き、運動不足もあったことが考えられたため、強度の低い運動から徐々にスタートしたが、学生間では多くの笑顔がいつも以上に見られ、「身体を動かす楽しさ」や相手との直接的な会話から生まれる「コミュニケーション力」が感じられ、いつも以上の盛り上がりを見せた(写真3)。 スポーツの持つ力  現在、新たに変異した新型コロナウイルス感染症(変異株)が流行し、第4波がきている。多くの国民がさらなる自粛を求められ、その結果運動不足やストレスから、心身に悪影響をきたす健康二次被害の問題が生じている。スポーツには前述のとおり、心身の健康の保持増進のみならず、人々の間の対話を促進する力がある。多くの会社や企業が悪戦苦闘する中、大会開催についての可否などスポーツや部活動再開についての賛否両論は否めない。しかし、コロナ禍によってスポーツの機会を失ってしまった若い世代に夢を与えるべく、スポーツ界も日本代表選手におけるオンライン講習会など創意工夫している。どんなに対策を講じても感染を完全に防ぐことは現時点において不可能かもしれないが、対処できることはすべて対応し、また安心していつもの日常が戻ることを切に祈るばかりである。 表1:健康観察表 1回 日にち / 体温   ℃ におい する・しない 味 する・しない 咳・痰 ない・ある 喉の痛み ない・ある 倦怠感 ない・ある 頭痛 ない・ある 消毒しての入館 した・していない 写真1:消毒作業の様子 写真2:試合前の手指消毒 写真3:授業風景