P05 〈一冊の本〉 『アンダーコロナの移民たち日本社会の脆弱性があらわれた場所』 本研究所研究員 矢野治世美 (前近代部落史) 鈴木江理子?編著 明石書店 2021年 2,500円(税別)  コロナ禍という世界的な危機において、さまざまな差別が問題となっている。「コロナ差別」というと、感染した人や家族、医療従事者、エッセンシャルワーカー等に対する偏見や誹謗中傷、風評被害が思い浮かぶかもしれないが、本書では日本における移民/外国人に対する公的差別や構造的差別を中心に、移民/外国人の視点からアンダーコロナという非日常を検証し、移民社会の課題を浮き彫りにしている。パンデミックの脅威はあらゆる人びとに降りかかるが、実際には移民/外国人のように社会構造的に「弱い」立場に置かれている者により大きくその影響が現われるのである。  本書は全12章からなり、「T 脆弱性はいかに露呈したか」(第1〜5章)では、コロナ禍における南米系移民、ベトナム人技能実習生、留学生、仮放免者が直面している危機や困難、ヘイトスピーチの実態が分析され、「U 脆弱性をどのように支えるか」(第6〜9章)では、移民/外国人の雇用、教育、セーフティネットが抱える脆弱性と、困難を乗り越えるための取組みが紹介されている。「V「もうひとつの社会」に向けて」(第10〜12章)では、ポストコロナを見すえて、持続可能な社会を実現するための移民/外国人政策のあり方が模索されている。  コロナ禍の中でセーフティネットからこぼれ落ちた移民/外国人を支えているのはNPOや宗教団体など市民社会による共助であり、本書でも複数の事例が紹介されている。これは阪神・淡路大震災、リーマンショック、東日本大震災といった非常時の経験や反省、日常の実践の積み重ねによるところが大きいが、経済活動の停滞が長期化する中で共助にも限界があることも指摘されている。  本書では、危機が発生してから移民/外国人の人権を守る対策をとるのでは遅い、と繰り返し強調されている。そもそも平時において、移民/外国人と日本人が「共に生きる」ための取組み(特に公助)が適切に行われておらず、非常時には移民/外国人が福祉や支援から排除され、「弱者」にならざるをえないという公的差別・構造的差別が問題なのである。直接的差別も同様で、パンデミック下のヘイトスピーチ・ヘイトクライムの背景には、平時のレイシズムやゼノフォビアが存在している。本書は、非常時の対策だけではなく「平時を見直すこと」がポストコロナの大きな課題であることを明示しているといえよう。