P06〜07 わたしの研究 64 テーマ スクールソーシャルワーカーとしての実践から 本研究所研究員 山口 倫子 (スクールソーシャルワーク)  2021年度社会福祉学部に赴任いたしました山口倫子です。今回の「わたしの研究」では、スクールソーシャルワーカー(以下、SSWerとする)として現場で10年以上働いてきた経験をもとに、私の研究テーマであるスクールソーシャルワーク(School Social Work、以下、SSWとする)についてご紹介いたします。皆さん存知かも知れませんが、SSWerの職は非正規雇用が殆どで、それだけで生計を立てることは現在でも難しい状況です。私もそのような境遇にあったため、SSWerとして働く傍ら、社会福祉士と精神保健福祉士の養成校に実習担当教員として勤めていました。SSWerを志す後輩たちのためにも、SSWerの処遇改善が進むことを望みます。 【日本のスクールソーシャルワークの歴史】  さて、ここで日本におけるSSWの歴史について少し触れておきます。アメリカではSSWの歴史は100年を超えますが、日本のSSWの萌芽は、1980年代に山下英三郎氏が埼玉県所沢市で始めた活動にあるとされます。当時は現在ほど児童虐待問題が顕在化していなかったこともあり、校内暴力への対応や不登校への支援が主であった山下氏の活動は、近隣の自治体に影響を与えるにとどまりました。その後、学校や学校教育との関連でも子どもを取り巻く環境は改善されるどころかより厳しさを増していく中、改めてSSWの必要性が叫ばれるようになりました。  国が政策としてSSWに着手したのは2008年のことです。当時の文部科学省は、子どもを取り巻く環境は複雑で憂慮すべきであり、児童生徒の心に働きかけるカウンセラーのほかに、児童生徒の置かれている環境に働きかけて子どもの状態の改善を図るには、学校と関係機関をつなぐソーシャルワークを充実させることが必要であるとの認識がありました。  文部科学省は、SSWを「問題を抱えた児童生徒に対し、当該児童生徒が置かれた環境へ働き掛けたり、関係機関等とのネットワークを活用したりするなど、多様な支援方法を用いて、課題解決への対応を図っていくこと」と定義し、SSWerの立ち位置については、「問題解決を代行する者ではなく、児童生徒の可能性を引き出し、自らの力によって解決できるような条件作りに参加するというスタンスである」と説明しています。また、SSWerの職務内容は、@問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け、A関係機関等とのネットワークの構築、連携・調整、B学校内におけるチーム体制の構築、支援、C保護者、教職員等に対する支援・相談・情報提供、D教職員等への研修活動等と定められています。さらに近年、「チーム学校」という新たな学校像が打ち出され、2017年の学校教育法施行規則によってSSWerは学校職員として位置づけられました。つまり、SSWerは学校現場での立場と役割を獲得したことになります。しかし、学校現場でのSSWerの認知度は低く、未だにその職務内容はおろか、その存在に対する理解すら進んでいません。 【私の問題関心とこれまでの研究】  私の研究の原点は、SSWerとしての実践にあります。私がSSWerとして活動し始めた時、その実践の在り方を規定しているのではないかと感じた要因の1つが、SSWerの配置のされ方でした。SSWerの配置のされ方は大きく2つあります。いわゆる配置型と派遣型です。配置型とは、例えば医療ソーシャルワーカーが病院内の医療相談室に常駐するのと同じように、決まった学校にSSWerを配置するやり方です。もっとも決まった学校に配置すると言っても、週に1日程度その学校にいるだけですが…。  他方で派遣型とは、SSWerは基本的に所属する教育委員会にいて、学校から教育委員会にSSWerの派遣要請があった場合のみ、その依頼をしてきた学校へ出向くというやり方です。他にも拠点配置型や巡回型など、SSWerの配置のされ方は自治体によって多様です。  私はSSWerとして実践する過程でさまざまな困難に直面してきました。そうした困難の要因には大きく2点あると考えています。1点目は先ほども述べましたが、SSWerの社会的な認知度の低さです。「SSWerという言葉すら聞いたことがない」あるいは、「SSWerに出会ったことがない」という人が学校関係者の間ですら珍しくありません。2点目は、SSWerが専門職として未確立であることです。現在では本学をはじめ一部の大学でSSWer養成課程が設置されていますが、これまでSSWerの人材育成が体系的になされてきたとは言えません。私を含めSSWer歴が10〜15年くらいのSSWerは、養成課程を経るどころかスーパービジョンすら受けられず、専ら自主開催される研修会やピア・スーパービジョン等で自己研鑽を積んできました。また、2008年度に国がスクールソーシャルワーカー活用事業を開始した直後はSSWerの任用基準が今よりも曖昧であったため、社会福祉士や精神保健福祉士でない人(心理や教職の資格保持者、警察OBなど)が大勢SSWerと名乗り活動していました。このように体系的な人材育成の環境が整っていなかったことから、現状ではSSWerの力量の差は極めて大きいと言わざるを得ません。私は、スクール“ソーシャルワーカー”という以上、SSWerは、ソーシャルワーク教育を受けた社会福祉士や精神保健福祉士が担うべきだと考えます。 【今後の展望】  上記のような問題意識から、現在私が取り組んでいる研究は、SSWerの業務の構造を明らかにすることです。SSWerが子どもの問題や課題の解決に向けて、学校現場でどのような実践を行っているのかについて、質的研究を行っています。そして私のこれまでのSSWerとしての経験から、SSWerの配置類型の違いによるSSWの有効性についても、今後研究を進めていくつもりです。  子どもは、未来の宝です!コロナ禍において、大人だけでなく、子どももたいへんな生きづらさを抱えています。自らSOSを出せない子どももたくさん居ます。子どもが希望をもって生きていける!そのためのお手伝いができればと、一人のSSWerとして強く願っています。