P10〜P11 福祉見てある記62 熊本市教育委員会事務局 〜スクールソーシャルワーカー活用事業〜 本研究所嘱託研究員 岡村ゆかり (社会福祉学)  新型コロナウイルスが急激に落ち着いた10月下旬、熊本市役所本庁舎横に位置するビルを訪ねました。そこには、熊本市教育委員会事務局があります。今回は、4階にある総合支援課で、熊本市のスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)活用事業について、課長の川上敬士氏(写真真ん中)と指導主事の田代博隆氏(写真左)にお話をうかがいました。  全国的にも、子どもたちを取り巻く環境は、多様化、複雑化しています。学校では、いじめや不登校等、様々な問題がみられます。このような問題を解決するために、熊本市でも教育委員会を中心に取り組まれています。  総合支援課では、教育相談室、特別支援教育室があり、生徒指導全般、いじめ・不登校対策、教育相談全般、特別支援教育全般に関する業務とともに、学校サポート班でSSW活用事業が行われています。 1.熊本市の教育方針とSSW活用事業の位置づけ  熊本市には、小学校92校、中学校42校、高校2校、特別支援学校2校があり、児童生徒数は61,845人(2021.5現在)とのことです。  熊本市教育振興基本計画(R2〜R5年度)では、「豊かな人生とよりよい社会を創造するために、自ら考え、主体的に行動でき る人を育む」という理念のもと、7つの「施策の基本方針」が示されています(図1参照)。その中の「(2)子ども一人ひとりを大切にする教育の推進」にSSW活用事業は位置づけられます。さらに、「重点的取組」の一つとしても「(1)いのちを大切にする心の教育の充実といじめや不登校への細やかな対応」が掲げられ、SSWの充実等が取り上げられています。  2.熊本市のSSW活用事業の概要  SSWは、学校からの依頼を受けて、派遣される仕組みになっています。 <役割>  SSWには、@問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働きかけ、A関係機関等とのネットワークの構築、連携・調整、B学校内におけるチーム体制の構築、支援、C児童生徒、保護者、教職員等に対する支援・相談・情報提供、D教職員等への研修活動等、といった役割があります。 <配置状況>  熊本市では2008年度から配置が始まり、熊本市がSSW活用事業の実施主体となったのは2011年度からです。今年度の配置状況は次の通りです。 SSWの人数  16名(一人週4〜5日の勤務)   〔内訳〕男女比(1名:15名)、年代別(20代1名、30代2名、40代9名、50代2名、60代2名)、SSW経験年数別(1年目8名、2年目5名、4年目2名、6年目1名) SSWの資格  社会福祉士、精神保健福祉士 SSWの体制  前年度の不登校の状況等を踏まえ、「不登校対策重点校」として6中学校区を指定し、不登校対策に取り組まれています。そのうちの3つの中学校をSSWの拠点校とし、1人1台のPCを設置した専用の部屋を設け、記録の管理やチームで定例会等も行っているそうです。 <2020年度の支援状況>  小学校では240件、中学校では299件の支援が10名(年度当初は7名でスタート)のSSWで行われました。具体的には、@不登校362件、Aいじめ、暴力行為、非行等の問題行動66件、B友人・教職員等との関係の問題(Aを除く)109件、C児童虐待107件、D貧困の問題54件、E家庭環境の問題(C、Dを除く)471件、F心身の健康・保健に関する問題(A、Cを除く)312件、G発達障害等に関する問題415件でした(一人の児童生徒で複数該当あり)。「家庭環境の問題」が最も多かったそうです。 <SSW活用事業の課題等>  現在、SSWの新たな勤務形態や体制づくりを考えたり、働き方改革の視点からも、一人ひとりのSSWが担当するケースの把握に努め、負担過重とならないために学校からの派遣依頼の受付やケース管理等を教育委員会が主導で行うようにしたりと工夫されています。  ただ、学校からのSSW派遣依頼は年々増加し、更なるSSW増員や、SSWの質の担保等が課題となっているそうです。  今後は、「SSWがチーム学校を構成する大事なピースの一つとして、益々必要とされるように周知するとともに、増員に伴い未経験者の割合が増えたことからも、さらなる研修の充実を図るなど、熊本市のSSW全体のスキルの向上にも努めていきたい。」ということでした。 訪問を終えて  お話をうかがい、よりよい事業となるよう一所懸命に取り組まれていることを感じるとともに、教育現場において、社会福祉の視点からの支援は、子どもや保護者、教員等から、とても必要とされていると感じました。  また、SSWには柔軟で幅広い視点やチームで動く力等が重要になってくると思いました。本学でも社会福祉士養成課程を基盤としたSSW養成が行われており、その強みを活かした養成教育を行っていきたいと思います。 図1 熊本市教育振興基本計画(R2〜R5年度) 拠点校でのSSWの様子 SSWの支援児童生徒数