P06~07 わたしの研究 65 テーマ 実習指導における理論と実践知(の検証) 本研究所嘱託研究員 那須 久史 (ソーシャルワーク実践論) 大学との出会い  私は、昨年2021年度本学社会福祉学部に特任教員(講師)として赴任いたしました那須久史と申します。 今回は私が熊本学園大学に赴任することになった背景や経緯、さらに教育と研究についてお話しできればと存じます。さて、熊本学園大学との関係(縁)は非常に長い間に渡っております。実は現場で仕事に従事しながら2001年3月に熊本学園大学社会福祉学部第二部社会福祉学科を卒業しました。ほぼ同時期に社会福祉士養成課程における実習運営委員会の委員に任命され、当時から学生が相談援助実習を経験するより良い環境の構築に向けて現場のスーパーバイザーの立場から寄与させてもらいました。  この間、将来の社会福祉を担う学生の人材育成を目的とするなかで、実習機関と大学である教育機関との2層の協働体制を意識するようになりました。学生の実習を受け入れ、指導する機関としての課題は、規定の就業業務への対応があるなかで時間をはじめとするコストを分配しなければなりません。実習教育のカリキュラムが変更されるなか、それを感じておりました。現場では、望まれる職場環境では、実習自体をその組織の事業(タスクともいえる)として位置づけをし、組織体制や組織方針、そしてマネジメントの方法について調整・変革を実行してきました。 教育と研究との出会い  私は、実は医療系の資格(理学療法士)を取得し病院にて勤務しておりました。前述しましたように日中は仕事に従事し、夜間(二部)大学に通学。卒業後本学社会福祉学研究科修士課程に進みました。大学院では、高齢者福祉、特に介護予防と健康づくりを地域福祉領域と統合する取り組みを実践と理論の検証として研究してまいりました。介護予防と健康づくりでは医学モデルを用い、地域福祉の領域は生活モデルを活用し前者は技術的問題として、後者は適応課題として論を進めました。  一方、仕事は高齢者とその家族の相談援助機関である地域包括支援センターに勤務しておりました。この現場実践を活かしながら、大学院の修士課程を修了後、非常勤講師をさせてもらいました。私が現場での経験や実践をどう学生に伝えていくのか、その方法を模索しておりました。  社会福祉学の実践の科学化や概念化は、研究はもちろんのこと学内での教育や現場での実践が統一され、一体となって進めていく必要があると思われます。それはソーシャルワークの研究とソーシャルワーカーの教育、ソーシャルワーク実践が相互に絡み合い一体となって進められることが重要であると思います。少なからず、私が勤務しておりました地域包括支援センターにおきましては、社会福祉現場にてソーシャルワークの実践を研究し、理論化する活動も同時に行い、なおかつ自分たちの現認訓練を含む教育にもコストをかけてまいりました。しかし、多くの実践現場では教育と研究が実践場面で進められることは少ない状況だと認識しております。大学の教育もまた、ソーシャルワークの研究を行い、研究では現場におけるソーシャルワーク実践を検討し、理論化することによって進めていくことが必要だと思います。同時に研究の成果である理論は、現場のソーシャルワーク実践によって検証していくことが求められます。私はこれまでの実践的な経験を活かして、まさにソーシャルワーク実践の現場である地域包括支援センターの実践事例をもとに、今後も実践知を理論へ、理論を実践知に変換していく研究に取り組みたいと考えております。それは社会福祉現場のソーシャルワーカーの教育への従事に連動するものであり、大学の教育の評価にもつながっていくものだと考えます。  平成30年度赤い羽福祉基金助成事業「コミュニティに強いソーシャルワーカー(以下、コソ研)を養成する研修2018」日本ソーシャルワーク教育学校連盟資料(以下、コソ研資料と略す)において、これからは、個人や家族・世帯に対するミクロレベルの実戦にとどまらず、地域(メゾレベル)や制度・施策(マクロレベル)までも視野に入れつつ、実践できるソーシャルワーカーを広く養成・育成することが求められるとされています。ソーシャルワーカー養成においても、ミクロ・メゾ・マクロレベルで課題解決のイメージ像を描き、実践できる力量を修得することが求められており、特に実習教育でより実践的な力が身に付くプログラムや体制の整備などを検討していく必要があると示されています。今後、大学教育のなかで、この過程を踏んでいく具体的な計画策定とプログラム実践において、これまでの経験と成果、そして種々の機関や組織との人的なネットワークが非常に役立つものと認識しております。因みに教育と研究、そして実践場面の統合的場面には、インストラクショナルデザイン(教育設計)の理論を用いております。いくつかの技法があるなかでARCSモデルである<注 意>、<関連性>、<自信>、<満足感>を意識しております。詳しい授業内容は割愛させていただきます。  コソ研資料にあります、実践力の高いソーシャルワーク専門職を養成・育成するために、「実践現場」「学会等学術」「養成機関」「専門職」とで、それぞれの知見・経験・有している資源を共有し、学生の養成段階からミクロ・メゾ・マクロを意識したソーシャルワークを修得できるよう、教育と実践の連動性を高めることが求められておりますが、これまでの実践を通した経験的学習の積み重ねを基盤にし、包括的・計画的、そして実践的な教育と研究に取り組んでまいります。