P12 〈一冊の本〉 「伴走型支援 ―新しい支援と社会のカタチー」 奥田知志・原田正樹編 有斐閣、A5判並製カバー付、208ページ 定価2,200円(本体2,000円) ISBN 978-641-17466-5 本研究所嘱託研究員 工藤  歩 (スクールソーシャルワーク、児童福祉)  本書は生活困窮者やホームレス、不登校や引きこもりなどの社会的に孤立した状態にある人たちに対して「伴走型支援」を行なうにあたり、今なぜ伴走型支援が必要なのか、伴走型支援の特色や重要性は何か等について、編者の一人であるNPO法人抱樸の代表奥田知志が実際に実践してきた支援を例に、奥田と奥田の提唱に賛同し日本福祉大学で伴走型支援士の養成等に携わっている原田正樹の二人が編者となって記された著書である。  奥田は1990年に北九州の「北九州越冬実行委員会」に参加しホームレス支援を開始した。95年に同団体代表へ就任しその後団体は2000年に「NPO法人北九州ホームレス支援機構」とNPO法人化され、それが現在のNPO法人抱樸へと繋がっている。  これらの団体はホームレスへの居宅支援や炊き出し、生活困窮者への生活支援などを行っていった。奥田はキリスト教会の牧師でもあり、その慈善活動の一環としてもこれらの活動を進めていくことになる。  活動を通して奥田は「つながり」の重要性を実感しその後の伴走型支援のきっかけを得ていくこととなる。  奥田は1988年から37年間に渡り北九州市で炊き出しを行なっている。そこで奥田は炊き出しは「いのちを守る」と同時に「いざというときはここにおいで」という「つながり」を提供しているのだと考えた。  奥田はこの「つながり」こそが人々に「意欲」や「行動の動機」を与えていると考えた。それは言い換えれば「他者の存在が自身に行動の動機を与える」ということである。  ホームレス支援を行なっていく中で奥田は「ホームレス」と「ハウスレス」の違いに気づいていく。「ハウスレス」とは経済的困窮であり、つまりお金がないことで家を持てない(借りることができない)状態を指す。一方で「ホームレス」とは社会的孤立であり、家があったとしても他者との繋がりがなければそれも大きな社会的問題の一つであるということである。そこで奥田は社会の必然の中で「つながること」に注目し、そのことに重点を置く「伴走型支援」の必要性を訴えていくことになる。  これまでの「問題解決型支援」は問題が解決した時点で支援は終了する。しかしこのことは一方で「自立が孤立に終わる」という問題を引き起こしていた。奥田は具体的な問題解決のために「この人には何が必要か」ということと同時に「この人には誰が必要か」ということの重要性を提起した。  こうして伴走型支援は深刻化する「社会的孤立」に対応するために「つながり続ける」ことを目的として生まれた。「つながる=一人にしない」ということは孤立状態にある個人に対する支援(対個人)であるとともに、「人を孤立させない地域社会の創造」(対社会)を目指す「社会活動」でもある。  では何故「社会的孤立」が問題なのか。まず第1に「自分からの疎外」という問題である。我々は他者を介して自分の状態を把握する。よって他者との関係を喪失してしまうと自分の状態が認識できなくなり、存在意義を見失ってしまうことになる。  第2に「生きる意欲・働く意欲の低下」という危機である。人は自分を諦めたとき全てが終わってしまう。しかし「誰かのため」という外発的な動機を持つ人は踏ん張ることができるのである。  第3に「社会的サポートとつながらない」という危機である。いくら良い制度を作ってもそれを知らない、教えてくれる人がいない、繋いでくれる人がいないなら「存在しない」のも同じだからである。  「経済的困窮」の深刻化と同時に「社会的孤立」が進行する現在社会においては「問題解決型支援」と「伴走型支援」は「支援の両輪」として実施される必要がある。 発行所 熊本学園大学付属社会福祉研究所     〒862-8680 熊本市中央区大江2-5-1 096-364-5161(代) 発行人 所長 仁科伸子  編集人 社会福祉研究所委員会 印刷所 コロニー印刷 096-353-1291