P06~07 わたしの研究71 テーマ 遊びの力、学びの未来―グローバル時代の子ども家庭福祉を考える 本研究所研究員 栗原 武志 (体育科教育学) 1.私の原風景 ~幼少期の遊びの大切さ~  私が生まれ育った熊本県の県北地域は、緑豊かな山々や田園風景が広がり、例年この時期は、田植えに向けた作業が、朝早くから夜遅くまで続いています。私の通った小学校は、自宅から片道約2㎞の距離にありましたが、2016年に閉校し、近隣の3つの小学校が1つに集約されてしまいました。小学生の徒歩での登下校の様子は見られず、その代わりにスクールバスが毎日運行され、子どもたちの通学の様子も様変わりしています。近年、子どもたちの運動習慣の2極化が言われていますが、登下校の歩数が私たち世代より低いはずですので、子どもたちの活動量は極端に減っているのではないかと推察されます。  運動神経は、生後2~3歳から、小学校3~4年生までの時期にほぼ形成されますので、毎日4㎞歩いて、学校が終わって帰ったら、宿題はほどほどに、日が暮れるまで近所の友だちとかくれんぼ、缶けり、ゴム跳び、野球遊び、魚釣り。夏休みは毎日友だちと川に行って泳ぐといった日々が、現在の私を作ってくれました。運動や体育、スポーツが好きになり、体育の先生を目指した原点がここにあります。 2.現代の遊びと子どもたちの健康 ~日本とアブダビをみつめて~  先日、Nintendo Switch2が発売され、抽選や転売などの話題がニュースになっています。今、小学生の姪を見ていると、携帯ゲーム機のNintendo Switchを片手に、ゲームに、そしてその機器でYou TubeやTikTokの動画閲覧に忙しく、親にも姉妹にも「また、ゲームしている」と繰り返し言われています。姪のみならず、今日、子どもたちの生活や遊びの様子も大きく様変わりしている状況が、デジタル機器から垣間見ることができます。  新型コロナウイルス感染症が流行する前になりますが、2015年~2020年にかけて、シンガポール、アブダビ、バルセロナと日本人学校に在籍している子どもたちの身体活動や健康調査を実施しました。その際、現地の子どもたちも受け入れて、一緒に保育や教育を行っている風景をアブダビの日本人学校で拝見しました。この日本人学校では、子どもたちが中学生になるにつれ、肥満の問題を抱えている現状がありました。年間3分の1が気温40℃を超え、どこに行くにも専属ドライバーによる車での送迎がなされるアブダビの子どもたち。家庭では、メイドさんが子どもの面倒をみて、保護者は子育てに無頓着のようです。昼食時のお弁当もポテトチップスなどのジャンクフードやファーストフードで、これが毎日続き、3歳の時からこのジャンクフードお弁当。この背景には、アブダビでは、裕福な家庭が多く、車移動・メイド任せの生活スタイルというこの国ならではの事情があるようでした。  近年、日本も気温35℃を超え、40℃に迫る日数が増えてきました。熱中症警戒アラートが出される頻度も高くなり、さらに子どもたちの活動量は減少していくと思われます。アブダビで見た景色から、日本のこれからの子どもたちの身体活動や健康について考えるものがありました。  アブダビ日本人学校で日本人と一緒に学ぶアラブ首長国連邦(UAE)の子どもたちですが、将来日本の大学への進学を目指し、最終的にはUAEの政府等の要職に就き活躍する予定です。幼少期からの混合保育や教育が、今後の両国の発展につながればと切に願います。 3.そして、神戸 ~教員への道、大学院への進学~   大学の教育学部を卒業し、教員免許も取得し、何度目かの地方自治体の教員採用試験も合格し、小学校教員として勤めた時期もありました。当時は採用試験の倍率が、どの自治体も10~20倍程度で、就職で苦労した思い出があります。その後、さらなる学びを求めて神戸大学大学院に進学しましたが、大学教員としての道を歩むことになるとは、当時まったく想像もしていませんでした。  今、ご縁あって熊本学園大学に勤務させていただき、優秀でやさしく、元気いっぱい、希望にあふれる子ども家庭福祉学科の学生さんと、一緒に身体を動かしながら子どもたちの運動遊びを考えたり、健康について考えたり、地域の子どもたちを支援する活動や研究に携わることができています。学生さんや地域の方々、熊本学園大学、そして研究者へのステップアップする契機となった神戸大学に感謝の気持ちでいっぱいです。 4.そして、世界へ ~世界へと広がる研究活動~  近年は、海外での学会発表にも積極的に挑戦しています。オーストラリアのマッコリー大学、タイのチュラロンコン大学、韓国のソウル大学での発表や各国の研究者との交流は、視野を広げる貴重な経験となりました。さらに、学会期間中に学会開催国の保育・幼児教育現場を視察するツアーも組まれており、各国の実践を肌で感じています。  2025年は、イタリア・ボローニャ大学とニュージーランド・オークランド大学での発表を予定しています。イタリアでは、未来の教育の見本と称されるレッジョ・エミリア・アプローチを視察する機会にも恵まれていますので、今から非常に楽しみです。帰国後は、視察で得た学びを、これからの日本の幼児教育、保育、そして小学校教育を担う子ども家庭福祉学科の学生さんたちと共有し、学生さんが世界に羽ばたくきっかけづくりができればと考えています。 神戸大学100周年記念会館 The University of Sydney シドニー学会にて