ごあいさつ
2005年4月、熊本学園大学に水俣学研究センターが開設されました。国立の水俣病専門の研究センターは水俣市に開設しましたが、民間のこのような研究センターは初めてで、水俣病の歴史の中で画期的といえます。
水俣病事件は大変不幸な事件であったことは違いありません。しかし、環境汚染と食物連鎖による中毒や胎児性水俣病の発生は人類史上初めての事件であり、人類の未来にとって重要な教訓となっています。そして、水俣病は世界の環境政策の分野のみでなく、さまざまな分野に於いて計り知れない影響を与えてきました。その意味ではまさに「負の遺産」であります。
胎児性水俣病患者のとも子さんの両親が重症のとも子さんを「宝子」と呼んで慈しんだように、水俣病はまさに「人類の宝」です。その「宝」を私たちの社会はこの50余年間に「宝」に相応しく、大切に扱ってきたでしょうか。行政も研究者もこの人類史上初めての被害者たちを大切に扱ってきたでしょうか。水俣病の被害は、健康被害はもちろんですが、不知火海周辺に住む住民は有症、無症にかかわらず、すべてに及んだのです。理不尽な差別に泣かされたり、経済的な大きな不利益を負わされたり、伝統的な文化や生活様式、そして人の心まで傷つけられたりしてきたのです。
水俣病事件は医学的研究や社会学的研究が進められてきました。しかし、社会科学的な研究は不十分と言えます。水俣病の膨大な被害に対してその実態の究明は未だ遅れており不十分と言わざるを得ません。水俣病はきわめて社会的・政治的な事件でした。それを医学的研究に閉じ込めた不幸がありました。水俣学研究センターは医学的な水俣病研究センターとは違います。水俣病に関する学際的な研究センターを目指しています。専門分野や大学、研究機関を超え、専門家と市民(非専門家)、被害者の枠も超えた、バリアフリーの「参加する研究センター」を目指しています。さらに、研究の成果は地元に役に立つ、地元に還元できるものを目指します。誰にでも開かれた新しいスタイルの研究・教育の拠点にしたいと考えています。
私たちのこのような理念が実際に実現できるように努力したいと考えていますので多くの研究者、市民の参加と応援をお願いします。センター長挨拶へ戻る