2020年度
第3プロジェクト「水俣学アーカイブスをとおした知の集積と国際的情報発信拠点の形成」
水俣学研究センターに所蔵されている研究資料のデータベース化ならびにHPの更新。水俣学研究センターには新日窒労組旧蔵資料、水俣病研究会旧蔵資料、堀田宣之資料、鰐淵健之資料をはじめ本センターに寄贈された収集資料があり、それらの整理、登録ならびにHP上での公開を順次行っている。現在までに公開した資料群は11あり、HP上ですでにDBとして公開し、順次追加更新している。2020年3月に公開予定であった横断検索機能は、グーグル社が突如として無料での動画や音声公開配信サービスを中止したことにより、新たに映像に関するシステムを構築する必要がでてきたため遅延していた。しかし、今年度横断検索機能の公開が実現できた。このことにより、資料検索の向上や利活用の促進につながった。
本年度は、既出の井上科研基盤研究(B)および基盤研究(C)「第三水俣病事件は幻か?真相解明と資料の収集・整理で歴史的教訓を得る」(研究代表:高峰武、2019-2023年度)と連動して、水俣学アーカイブを公害教育へつなげる作業、資料を活用し水俣病事件史研究することに注力した。これらは、水俣学アーカイブの構築による利活用の促進と社会貢献へと移行することが求められ、公的研究支援において求められている国内外の種々の研究教育機関のネットワークの構築に益するものである。
2019年度に終了した戦略的研究基盤形成支援事業のうち第三班の研究事業計画は、過年度の成果を踏まえて、持続可能な研究基盤を形成し発展させるため事業終了後も同内容の調査研究を継続した。具体的には、下記の通り事業を実施した。
1. 水俣学研究センター所蔵資料データベース
http://www3.kumagaku.ac.jp/minamata/database/
「水俣学データベース」は、2009年から当センターのホームページ上で公開を開始し、種々の文献目録と写真目録、音声目録で構成している。2020年度に横断検索機能を搭載するにあたり「水俣学研究センター所蔵資料データベース」という呼称を「水俣学データベース」に改めた。
文献目録には資料の画像(マスキング加工)を順次掲載し、写真目録にも画像を順次公開している。写真資料の整理にあたっては、水俣病事件のただなかを生きてきた元新日本窒素労働組合員の協力を仰ぎ、写真1枚が水俣病事件を知らない若い世代にまで語り続けていける情報を盛り込む作業を行っている。さらに、カセットテープなどの音源資料は、デジタル音源に変換し、目録上で視聴できるよう工夫を加え順次更新している。以下、資料群ごとの成果を述べる。
【新日窒労組旧蔵資料】
水俣病の原因企業であるチッソ株式会社の労働組合である新日本窒素労働組合は、会社と対立する形で水俣病患者の支援運動に乗り出した日本の労働運動史上に特筆されるべき活動を行った組合で、その資料は、文献資料、現物資料、写真資料目録で構成され2009年から公開してきた。資料目録の細目録、目次番号の入力および、写真目録上に写真画像を追加する作業を継続して行った。新日窒労組旧蔵資料の写真目録化は、水俣学現地研究センターにおいて、元組合員に依頼して撮影日時、場所、被写体等の情報等を「写真目録カード」に記載し、2009年から継続して進めてきた。6万点以上におよぶ写真資料の同定作業は、写真資料に付加価値をつけ簡易検索を容易にするものであり、写真目録カード化は終了した。写真目録カードを目録とする作業も継続して行い、当センターHPで順次更新している。にあわせ本資料は、1946年に組合が結成後収集した資料であり、温度湿度管理されず保管されていた資料であるため資料そのものの酸性化及び破損被害が大きい。そのため、2017年度から脱酸性化・修復作業をプリザベーション・テクノロジーズ・ジャパンに業務依頼し、段階的に資料保存プロジェクトを開始している。今年度は41冊の脱酸性化・修復作業を終えた。【水俣病研究会蒐集資料】
水俣病研究会蒐集資料は、チッソに対する訴訟で原告・弁護団を支援する目的で結成され、訴えの論拠と裏付けを提示するために一次資料の蒐集を行った研究会の資料である。資料は本学7号館に1968年以降のもの、熊本大学学術資料調査研究推進室(水俣病部門)に68年以前の資料が保管されている。2016年3月に熊本大学学術資料調査研究推進委員と協議し、研究者の資料アクセスが容易になること、災害危機管理が必要であるとの合意がなされ、2016年3月から熊本大学から68年以前の資料を借用し複写を行った。2016年の熊本地震時に散乱した同資料を再整理し資料番号を付与する作業を継続して行ってきた。この作業は、『水俣病事件資料集』の続刊刊行に向けた取り組みとしても位置付いている。今年度は、本学に収蔵されている水俣病研究会蒐集資料7810件のうち810件の再整理と登録作業、熊本大学収蔵の同資料の3075件の整理・登録作業を終えた。熊本大学収蔵の同資料は、昨年までRAが整理・登録作業を行っていたものの、本学分と合わせる際に近代資料目録整理基準に合致していなかったため再整理・登録作業が必要となったため時間を要した。
【松本勉旧蔵資料】
松本勉旧蔵資料は、元水俣市職員で水俣病市民会議事務局長をつとめた方の資料群である。2016年に公開した。今年度は、すでに公開している音源のカセットテープの登録作業を911件全て終了し、カセットテープからCD-Rにデータ変換する作業を448件終了した。音声目録は、データ変換したものを目録上で視聴できるように2019年度から順次公開しているが本年度は予算の関係上公開することができなかった。
【福田政雄旧蔵資料】
福田政雄旧蔵資料は、水俣病訴訟弁護団の一員であった福田政雄弁護士(1913-1989)の所蔵にかかる水俣病関連資料で二次訴訟や三次訴訟関連が大半を占める。福田政雄は、水俣病訴訟弁護団の一員として二次訴訟、三次訴訟などを担うとともに平和運動や人権保障関連の訴訟に熱心に取り組んでいた。本資料は福田弁護士他界後、同弁護士と知己であった本学教員によって産業経営研究所に持ち込まれた。一般民事含め膨大な資料群のうち、水俣病訴訟(1.2.3訴関連)の書面、書証、調書類を整理したものである。2007年ごろ目録作成作業が進められたが、当センターの整理基準で改めて整理登録作業をしたところ、水俣病事件以外の刑事事件資料が含まれていたため取扱に関する検討を重ねており、公開に向けて準備中である。
【データベースページ閲覧累積件数】
HP上のデータベースページ閲覧累積件数は、130682件であった。今年度の資料閲覧件数はCOVID-19の感染拡大により当館は入場制限などしていなかったものの利用者が移動制限などあったためか、水俣学研究センター(熊本市)5件、水俣学現地研究センター(水俣市)2件と極端に少なかった。
2. 水俣学アーカイブ横断検索
https://www3.kumagaku.ac.jp/minamata/db/cs_search.php
横断検索は、個別のデータベースを1回の検索画面で探すことができ、資料活用の促進につなげるために2020年12月に設けた。これに伴い、他機関と同様にデータベースと映像を総称して「水俣学アーカイブ」とし、それまでの「水俣学アーカイブ」を「映像アーカイブ」と呼称変更した。
3. 水俣学アーカイブ
http://www3.kumagaku.ac.jp/minamata/marchives/
水俣学アーカイブスは、資料と映像をリンクしたアーカイブで、水俣学研究・資料文献データベースおよび映像資料を通して、水俣学の取り組みの一端が研究者以外へも理解が容易になるよう、記録・記憶の集積を視覚的に公開したものである。今年度は横断検索構築に伴い、「水俣学アーカイブ」という呼称を「映像アーカイブ」に変更し、ホームページの見直しを行った。音声(映像)ファイルに直接リンクされていたものをページに埋め込む形で再生できるようにしたため、プロジェクト3の研究計画と予算決定額を大幅に見直す必要があった。
4. チッソ労働運動史研究会
学外の研究員を加えて、元従業員を招聘し、定期的に研究会を水俣現地センターおよび本学で開催した。本年度は、2021年3月に『水俣に生きた労働者 チッソと新日窒労組の59年』(明石書店)を刊行した。研究員の分担は、通史を富田(佐賀大学)、労使関係・労働運動史を花田・富田・石井(大分大学)、経営史を磯谷(九州大学)、社会運動史を鈴木(法政大学)、民衆史・生活史を福原(大阪市立大学)、組合の健康調査が井上であった。研究会開催については先述したとおり。
5. 所蔵資料・書籍類
本学および現地センターの蔵書に関しては、蔵書の活用(閲覧、研究員のみへの貸し出し)ができる体制が整っている。
また、水俣学戦略的研究基盤形成支援事業の書籍予算に加えて、基盤研究(C)「胎児性・小児性水俣病患者の自立生活と主体形成への回路」(研究代表:田㞍雅美、)、基盤研究(B)「公害教育実践に利する水俣学アーカイブの構築とその外延」(研究代表:井上ゆかり)より、水俣学研究用図書の寄贈も受けており、本年度登録された蔵書は678冊(寄贈図書638冊含む)になった。蔵書目録は研究センターの蔵書管理用に作成されており公開していないが、貴重図書も多いことから公開を検討している。
なお、研究・調査の進展に伴い、種々の行政関係資料、訴訟関係資料、海外調査関係資料など多くの資料類を受け入れている。これらは、調査研究過程で得られた資料であることから、従前より複写製本するにとどまり、登録作業は行なっていなかった。本年度は、こうした調査資料等を書籍として登録番号を付与し、検索が容易になる研究環境を整えた。また、水俣学研究センター調査などで撮りためてきた映像はDVDで保存してきたが登録番号を付与していなかったため、本年度は整理基準の見直しを行い登録番号を付与した。
6. 寄贈資料
今年度、受け入れた資料は以下の通りである。なお、資料寄贈が多岐にわたってきたため「寄贈受け入れ簿」の再整理、受け入れマニュアルの整理、公開・未公開や保存先が分かる一覧表を作成する必要が課題となったため、来年度実施する。
寄贈日:2020年5月8日 寄贈者:中島眞一郎 氏 資料内容:苓北火電反対運動資料 段ボール21箱、コンテナ5個(整理中)
寄贈日:2020年5月28日 寄贈者:山下善寛 氏 資料内容:水俣地図 17点(脱酸性化と修復済み)
寄贈日:2020年6月4日 寄贈者:緒方紀明 氏 資料内容:チッソ関連書籍 5点(図書登録済み)
寄贈日:2020年8月3日 寄贈者:東俊裕 氏 資料内容:溝口訴訟、互助会訴訟資料 段ボール16箱、コンテナ2箱(整理中)
寄贈日:2020年8月3日 寄贈者:細川弘明 氏 資料内容:原田正純先生書簡 3点(整理中)
寄贈日:2020年8月24日 寄贈者:坂本みゆき 氏 資料内容:興南小学校同窓会誌ほか 5点(整理中)
寄贈日:2020年8月24日 寄贈者:石坂美代子 氏 資料内容:水俣関連書籍 3点(図書登録済み)
寄贈日:2020年8月24日 寄贈者:川﨑政勝 氏 資料内容:JR肥薩線DVD 2点(DVD登録済み)
寄贈日:2021年3月4日 寄贈者:萩野直路 氏 資料内容:阿賀野川と水俣病DVD 2点(DVD登録済み)
寄贈日:2021年3月5日 寄贈者:新日窒労組旧蔵資料未登録資料 資料内容:3点(整理中)
7. 水俣病事件資料集編纂委員会
水俣病事件資料集続刊の2020年3月の刊行にむけ、水俣病事件資料集編纂委員会を2015年3月に設けた。委員は、統括責任者・編者を花田、資料編纂顧問・編者を高峰武(客員研究員)、資料収集指揮・編者を山本尚友(客員研究員)、編者を東島大(客員研究員・熊本県民テレビ)、井上、石貫謹也(熊本日日新聞社)、隅川俊彦(熊本日日新聞社)、矢野治世美(熊本学園大学)で構成し、アドバイザーとして富樫貞夫(客員研究員・熊本大学名誉教授、水俣病研究会)、有馬澄雄(客員研究員・水俣病研究会)に依頼した。資料は、第三会議室に設置し、加えて水俣病研究会資料の複写を進めるとともに、本年度は、各自分担しての資料カードの作成を継続して行った。研究会開催については先述の通りである。