センター長挨拶

ごあいさつ

水俣学研究センター長中地 重晴

1999年の水俣学の提唱、2005年水俣学研究センターの設立から、早20年、故原田正純先生、花田昌宣先生の後を継いで、3代目のセンター長に就任しました。1956年5月の水俣病公式確認から67年を迎えますが、水俣病をめぐる諸問題は一向に解決していません。胎児性訴訟あるいは第二世代訴訟と呼ばれる国家賠償請求訴訟や認定義務付けを求める行政訴訟では、原告全員の訴えを退ける判決が出され続けています。今なお、多くの人が認定を求めて訴訟や認定申請に取り組まれています。すべての水俣病被害者への補償、救済のために、被害の全容を把握することが求められています。

2023年現在、芦北町から水俣市にかけて、大関山と鬼岳周辺に巨大風力発電の計画があり、粛々と環境影響評価が進められています。大雨による土砂災害の発生や周辺住民の低周波騒音等の健康被害の可能性が指摘されています。再生可能エネルギーとはいえ、発電された電力を全て都市部に送る計画に対し、水俣市のまちづくりの姿勢が問われています。
こうした現状をどう打破していくのか、解決策を提案していくことが水俣学に求められています。

一方、沖縄戦や広島、長崎の原爆被災地では、語り部が高齢化し、実体験を持たない人が次世代に被害の教訓をどう継承していくのかが問われています。水俣でも同じ課題を抱えています。当センターでは、新日本窒素労働組合や関西訴訟の弁護士のほか、水俣病被害者や関係者から多数の資料が寄贈され、旧蔵資料として公表する作業を進めてきました。映像資料のデジタル化を進めつつ、次世代に教訓を伝えるツールとしてアーカイブを充実させてきました。
次世代に水俣病の教訓を継承していく活動を軸に、水俣学研究センターの新たな展開を検討していきます。カナダ先住民や東南アジアの公害被害者との国際的なネットワークを強化し、国内外の研究者や被害者が当センターを快適に利用できるよう環境整備を進めていきたいと考えています。

研究者と市民が協働し、学際的な研究、教育活動を実践する水俣学を発展させていきますので、より多くの方のご支援とご協力をお願いします。